政策研究会『人口減少社会における病院の経営持続性を考える』

主催:静岡県立大学医療経営研究センター

 昨年6月に医療介護総合確保推進法が成立し、続く9月には医療介護総合確保方針が公表されました。その内容は、いわゆる団塊世代が75歳以上となる2025年(昭和100年!?)に向けて、利用者の視点に立って切れ目のない医療 ・ 介護のサービスが提供されるための基本方針を提示するものでした。
 ところで、同じく昨年から大きくクローズアップされたのが、人口減少社会が進行するわが国地方の市町消滅の危惧でした。このことは地方の医療介護提供体制の経営持続に深刻な影響を与えるにもかかわらず 、国や自治体の政策検討はまだ明らかではありません。
 その理由は、医療介護総合確保方針が「2025年」をゴールにしているからでしょうか。つまり、その筆頭政策課題ともいうべきものが、わが国の超高齢社会に備えた医療介護総合確保推進のための車の両輪と例える「効率的かつ質の高い医療提供体制の構築」と「地域包括ケア体制の構築」であり、前者は厚生労働省が現在作成中で 近々示される地域医療構想策定のガイドラインに沿って都道府県が医療計画を作成して構築するとされ、後者は先年の介護保険法改正時より示される地域包括ケアシステムが市町基礎自治体が構築するとされるため、全国の自治体の目が「2025年」に釘付けになるのは当然です。
 たしかにわが国の高齢化率は世界で最も高く、しかも伸び続けておりますので、まずは超高齢社会の医療介護保障の体制構築は喫緊の課題です。
 しかしながら、わが国の人口減少社会の進行ぶりを予測した国立社会保障 ・ 人口問題研究所の『日本の地域別将来推計人口…平成22(2010)~52(2040)年』(2013年12月25日刊)に照らすと、今後2025年頃までの高齢化率上昇の主な理由が「高齢者の数の増大」であるのに対して、それ以降は高齢者人口が頭打ちとなるにもかかわらず総人口が減り続けることによる「高齢者の割合の増大」が理由です。このことが病院の経営にもたらす影響は重大です。すなわち、2025年頃に65歳以上高齢者人口が頭打ちとなり、結果、一人当たり医療費が非高齢者と比べて4~5倍となる高齢者の医療費の伸びも収まります。他方、非高齢者人口が減り続けることからこちらの層では医療費の総額が減少します。つまり、2025年を過ぎる頃というのが、わが国の医療需要(ただし金額ベース) のピークだと予想されるわけです。
 振り返りますと、わが国の人口は7年前の2008年頃に既にピークを迎え、その後は減って行っているにもかかわらず、高齢者人口増や医療技術の進歩が理由で、なおも国民医療費が毎年1兆円近く増え続けています。しかし、 高齢者人口増を理由とする医療費増分については、あと10年もすると頭を打つと見られ、長年にわたって危惧されてきた国民医療費の伸びもようやく収まると予想され、国が苦慮する社会保障、中でも医療介護保障の財政の破たんを回避できる目安となるものが現われてきました。
 その一方で新たに医療施設、とりわけ固定費比率が高くて急な需要減退への対応が難しい病院経営の破たんの 危惧も現れてきました。
 ちなみに、都道府県は、地域医療構想を来年度から策定することになっています。この構想は、構想区域の設定、その区域ごとの2025年の医療需要の見込み、その需要に対応するための医療供給体制、そして、その体制に移行するための施策をまとめるものです。また、行政や医療関係者等が協議しながら、構想実現を目指していくことになります。
 しかし、政策達成目標年次とする2025年までの10年ほどは高齢者人口増のために入院需要が増加する地域が多いと考えられますが、それ以降は高齢者人口の減少等のために入院需要が減る地域も相当にあると考えられます。 地方の病院、とくに公的病院などは、地域住民の入院需要に応えることが期待される一方で、その後の医療需要の 減少の状況によっては、医療機関としての存続が危ぶまれる場合もあるという、背反する課題に直面することになります。
 それでなくても地方の公的病院の多くは戦後の混乱が収束した1960年前後に建物が整備され、1980年前後に は施設・設備を一新し、1990年前後の病床規制前の対応で増改築してきたという経緯の中で、昨今になって大掛かりな建替え・設備更新の時期を迎えています。また、公的病院では医師確保のためにも建物・設備の新設に迫られています。そのような状況下で、今後10年余りの入院需要増への対応と、その後に生じる過剰設備整理の課題を同時に検討することを迫られるわけです。加えて、入院需要の増加と減少の時期が全国一律ではなく地域によって 異なるため、急ぎ対応せねばならないところとそうでないところで10数年近い開きがあるものと見られます。
 以上のようなことから、人口減少社会が深刻化するわが国の病院経営にあっては「2025年」よりも、それを超えて予想される 「2040年」の地域の人口構成の動向を念頭に置いた事業計画の検討が必要不可欠になると考えます。
 本日の政策研究会では、当研究センター顧問で元厚生労働省老健局長の宮島俊彦氏から全国の地域包括ケアの 進捗の様子と2040年に向けての見通しについてご講演いただき、続いて、只今、検討委員会での取りまとめが完了しようとしている地域医療構想策定ガイドライン担当の厚生労働省大臣官房審議官の福島靖正氏から、地域医療構想が各都道府県で策定される中で、病院の今後の経営の在り方に向けた見通しについてご講演いただきます。
 そのあと、厚生労働省社会保障担当参事官室室長補佐の山下護氏が、先だって当研究センターの研究調査におい で下さり、ご自身で静岡県志太榛原二次医療圏の公立病院群の立地を見て廻られたご感想を伺ったうえで、同医療圏の公立病院群の設置者・管理者の方々と檀上にて意見を交わす機会を設けます。
 じつのところ予測される静岡県の二次医療圏別医療需要(金額ベース)は概ね全国平均的であり2030~35年にピークを過ぎると見られてい ます。とはいえ、同じ二次医療圏内でも市町によってピークが前後します。そのようなことから、静岡県の二次医療圏の中でも医師確保問題が深刻な志太榛原二次医療圏を構成する4市1町のうち、500~600床の大型公立病院を有して近い将来に病院を建替えねばならない焼津、藤枝、島田の3市の病院事業運営と相互連携による経営効率化の可能性を探る議論となります。
 申すまでもなく、このような地域の基幹病院の経営持続性の政策研究は、静岡一県に限ったテーマではなく、全国で必要となります。そこで本研究会は公開方式として、全国に広報して開催いたします。

平成27年1月30日
静岡県立大学医療経営研究センター長 西田在賢

開催概要

開催日:2015年(平成27年)3月7日(土曜日) 開場:12時30分 開演:13時00分 閉園:16時30分
会場:静岡県立大学 小講堂(静岡市駿河区谷田52-1、JR東海道線「草薙駅」徒歩12分)
参加費:無料※ただし、事前申込みが必要です。

セミナープログラム

13:00~13:10

開会の辞

静岡県立大学長
木苗 直秀

13:10~14:00

(1)講演「地域包括ケアは2040年へと視点が動く」

【座長】
医療経営研究センター顧問
袋井市総合健康センター長
原野 秀之
【講師】
医療経営研究センター顧問
内閣官房社会保障改革担当室長
元厚生労働省老健局長
宮島 俊彦

14:00~14:50

(2)講演「地域医療構想開始、そしてポスト2025年を見る」

【座長】
医療経営研究センター顧問
静岡県社会福祉協議会会長
神原 啓文
【講師】
厚生労働省大臣官房審議官(医政担当)
福島 靖正

14:50~15:10

<休憩>

15:10~16:20

(3)討議「二次医療圏内公的病院の経営持続性について考える」
…事例:静岡県志太榛原二次医療圏と公立病院間の協力可能性

【ファシリテーター】
医療経営研究センター長
西田 在賢

(15:10~15:30)

基調講演

厚生労働省社会保障担当参事官室室長補佐
山下 護

(15:30~16:20)

パネルディスカッション

【パネリスト】
厚生労働省社会保障担当参事官室室長補佐
山下 護
袋井市長
静岡県市長会会長
元静岡県健康福祉部長
原田 英之
島田市長
染谷 絹代
焼津市副市長
半田 充
藤枝市立総合病院事業管理者
毛利 博

16:20~16:30

閉会の辞

募集概要

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